仕事
労力の程度を表すには
ここに二種類A、Bの作業がある。
人間がA、Bの作業をする場合、どちらの作業がより労力が必要なのであろうか?
| Aの作業 | Bの作業 |
滑車を使用して10[kg]の荷物を2[m]持ち上げる作業![]() |
10[kg]の荷物を、20[N]の力で水平に5[m]ズルズル押す作業![]() |
作業に対する労力の感覚は、その人の心理状態や体調、作業に対して持つイメージ、熟練の度合いによって変ってくる。
必要な労力を見出すには、人間の感覚には影響されない物理的な量が必要になる。
労力の尺度になる物理的な量、それが「仕事」という量だ。
仕事はWで表現する。
SI単位の場合、仕事の単位はJ(ジュール)だ。
「仕事W」は「要した力F」×「移動した距離s」で定義する。 A、Bの作業での実際の仕事を計算してみよう。
| Aの作業 | Bの作業 |
滑車を使用して10[kg]の荷物を2[m]持ち上げる作業![]() |
10[kg]の荷物を、20[N]の力で水平に5[m]ズルズル押す作業![]() |
| 要した力:F=98[N] 移動した距離:s=2[m] 仕事:W=196[J] | 要した力:F=20[N] 移動した距離:s=5[m] 仕事:W=100[J] |
この結果を見ると
Aの作業は約200[J]
Bの作業は100[J]
となり、AのほうがBより2倍大変な作業であることが分かる。
「仕事」を使うと労力が、物理的に表現できるから公平に判断できる。
Aの作業をする人は、Bの作業をする人より約2倍大変な作業をしていることが客観的に表現できるからだ。
もう一度、仕事の定義を見てみよう。
「仕事W」は「要した力F」と「移動した距離s」での積であった。
物体を移動させる手段が人手であっても、機械であっても、この定義には無関係であることに注意しよう。
だから、滑車のロープをモーターやエンジンで引いてAの作業をしても、仕事はW=196[J]で変らない。
人間であっても、機械であっても「作業の大変さ」は、仕事の値で比較することができるのだ。
モーターやエンジンは仕事をするとき、電気や燃料を消費する。
当然、電気や燃料がなければ仕事ができない。
つまり、電気や燃料には、「仕事をする可能性」が内包されているのだ。
「仕事をする可能性」をエネルギーと呼ぶ。
電気や燃料をエネルギーと表現するが、それは上記の理由による。
上記のAの場合、200[J]分の仕事をするには、200[J]分のエネルギーが必要になるのだ。
他方、電気や燃料は、電灯を光らせたり、ヒーターを発熱させたりも可能である。
つまり、発光や発熱にもエネルギーが必要なのだ。
仕事は「要した力F」×「移動した距離s」で定義したが、発光や発熱も実は仕事なのである。
人間も力を出して仕事をする場合、体外からエネルギーを得なくてはならない。
「食事からエネルギーの補給する」とは、このことをいう。
重量物を動かそうとして汗だくで力を入れても、まったく動かなければ、重量物に対して仕事をしたことにはならない。
このとき投入されたエネルギーは、筋肉の発熱など主に体内の仕事に消費されている。
ここで一度ポイントをまとめておこう。
作業に要する労力の指標として「仕事」を用いる。
「仕事」は「要した力」×「移動した距離」で定義する。
人間の作業も、機械の作業も、仕事が共通の尺度である。
移動だけでなく、発光や発熱も仕事である。
エネルギーがなければ、仕事ができない。
仕事の定義
物理でいう仕事と、日常語の仕事とは、かなり異なる概念である。
水平な板の上に物体が置かれている。この物体に紐を結び物体を水平に引っ張るとしよう。
引っ張る力はFとする。
この力Fにより、物体が距離sだけ移動したとする。
このとき力Fは物体に対して仕事をしたといい、その量はW=F・sと定義する。
仕事をする・されるの関係は少々ややこしいところがある。
この場合、
力は物体に仕事をした
物体は力によって仕事をされたのだ。
今度は物体を斜めに引っ張ってみよう。力Fが斜めに作用したケースだ。
この場合は、力Fのs方向の成分のみを考えればいい。
具体的な定義はW=F・s cosθとなる。
Fもsもベクトル量である。
ベクトル同士の内積なのでWはスカラー量である。
加えた力のベクトルをF、物体の移動を示す変位ベクトルをsとする。
これまでの例では、平面上の物体を直線方向に移動した。
くねくね道を引く場合の仕事は、道筋を微少な直線に分割し微少区間ごとの仕事を合算すればよい。
また、力Fは一定であるとは限らない。
例えば、バネに繋がれた物体を引くとき、バネが伸びるに従って引く力は増加する。
つまり力が位置に依存するのだ。
この場合は、力を微少な量に区分し、微少区間ごとに仕事を計算し、合算すればいい。
これらを総合すると仕事の定義は次のようになる。
仕事は労力の程度を示す指標であった。
しかし、この定義の式を見ると、仕事は「与えた力が及ぼす効果の度合い」を示していることもわかる。
力を加えた結果、力が物体に作用を及ぼして物体が動いたのだ。
いくら力を加えても力が足りなければ、物体は動かず仕事をしたことにはならない。ということだ。
力Fを与えて、その効果により物体が距離s移動したのならその効果の度合いはFsであると表現する。
力と距離との積なので、仕事の単位は[Nm]である。
ところが仕事は重要な概念なので特別に[J](ジュール)を当てている。
力に抗しての仕事
「仕事をする」と言っても、これには次の2系統ある。
「力が仕事する」場合
「力に抗して仕事をする」場合
この2系統の区別は紛らわしい。
重力を例にして解説しよう。
| 力が仕事する | 力に抗して仕事をする |
| 高さhにある質量mの物体が、自然落下し地面に衝突したとする。 このとき、重力がこの物体にした仕事はmghである。 |
地面にある物体を、重力と等大逆向きの力でゆっくり高さhまで持ち上げたとする。 このとき手が重力に抗してした仕事はmghである。 |
「力が仕事する」に関しては問題ないであろう。
仕事の定義そのものだからだ。
一方で、「力に抗して仕事をする」はしっくりこない。
違和感を覚えるポイントは以下の二つだ。
・重力と等大逆向きであれば合力はゼロになるので、仕事にならないのではないか?
・なぜ「ゆっくり」持ち上げるのか?
手のひらの上で、物体が静止している場合、力は以下のように等大逆向きとなる。
物体はmgの力で手のひらを押す
手のひらは上向きの力mgで物体を押す
二つの力の合力は、ゼロだ。
ここで微少な力僥の分だけ余計に力を加えれば、物体を上に向って動かすことができる。
高さhまでの過程の前半は、mg+僥で持ち上げ、後半はmg−僥で持ち上げる。
そうすると、力がした仕事は
となる。
僥が非常に小さければ、物体にかかる加速度a=僥 /mも小さくなるので、持ち上げる操作に時間がかかる。
僥→0とすれば、全工程を通してmgの力で無限に遅い速度で持ち上げたのと同等になる。
この場合、持ち上げていくどの時点においても、持ち上げる力はmgである。
非常に「ゆっくり」とは、僥を無限に小さくすることによってmgと等大逆向きの力を実現しようとする意図があるのだ。
上記では速度を前半、後半で分けた。
前半、後半と分離しないで、mg+僥の力で通して持ち上げてはいけないのだろうか?
この場合、高さhまで持ち上げる全過程で、a=僥 /mの加速度がかかる。
そうすると、この物体は等加速度運動をするため、hに達した時点で速度を持つためhの位置にピタリと停止できない。
後述するが、高さhにある物体は、ポテンシャルエネルギーmghを持つ。
等大逆向きの力mgでhまで移動する仕事がポテンシャルエネルギーmghと一致するように定義したい。
もし、高さhに達した時点で速度を持っていればポテンシャルエネルギーmghに加えて、運動エネルギーも持つことになり具合が悪い。
運動エネルギーが生じないようにするためには、hでピタリと停止する必要がある。
そのために、速度はゆっくり持ち上げなくてはならないのだ。
前半、後半とで分離し僥の符号を反転することにより、hでピタリと停止するのだ。
仕事の原理
どのように工夫しても仕事の大きさは変らない。
これを仕事の原理という。
仕事の原理があるので次の二つの仕事の大きさは同等になる。
A:20kgの荷物を背負い、10mの梯子(はしご)を垂直に登る
B:20kgの荷物を押して、高低差10mのゆるい坂を登る
Aに比べて、Bで必要な力は少なくてすむ。しかし、より長い距離を移動しなくてはならない。
(仕事)=(力)×(移動距離)なので、力で楽しても、より長い距離を移動しなくてはならないのだ。
これはテコの原理にも通じる。
テコは重いものでも、少ない力で動かすことができる道具である。
その起源は古く、4大文明発祥以前から知られていたようだ。
できるだけ力を要しないためには、極力長い柄のテコが必要である。
ここで注意しなくてはならないのは、柄の長いテコを使用して特するのは「力」であって、「仕事」ではないということだ。
柄が長くなれば、テコを押し下げる距離は長くなる。
つまり「力で楽しても、より長い距離を移動しなくてはならない」という仕事の原理が作用していることが分かる。
この仕事の原理には、重大なメッセージが込められている。
仕事の総量は変化しないから、仕事を使ってそれ以上に大きな仕事を作りだすことができないということだ。
仕事を使ってそれ以上に大きな仕事を作りだす装置・手段を「永久機関」という。
仕事の原理や後述するエネルギー保存の法則から、永久機関は実現不可能である。
科学・理工学発展の歴史の中で、多くの研究者が永久機関開発に挑戦し、失敗を続けてきた。
このような失敗例の積み重ねの中から、仕事の原理やエネルギー保存の法則が発見されたのである。
化学が錬金術を母体として発達してきた歴史と似ているかもしれない。
仕事と仕事率
2[N]の力で5[m]移動した場合の仕事は10[J]だ。
しかしこの10[J]の仕事を1秒で済ませた場合と、10秒要した場合とでは、仕事の能率が異なることに注意したい。
5[m]移動する場合でも、テキパキ1秒で移動させる場合と、ダラダラ10秒かかる場合では、結果が同じ10[J]でも、同一にみなすことはできない。
仕事の能率を仕事率という。
仕事率は単位時間あたりの仕事で表現する。
仕事を時間で割るのであるから単位は[J/s]だが、特別に[W]をあてている。
ワットは電気製品の能力を示す指標として日常生活でも馴染み深い。
電気に仕事をやらせた場合、1秒あたりどの程度こなせるかをワットで示しているのだ。
100Wの電球は、60Wの電球よりも明るい。
単位時間により多くの仕事をこなしているからだ。
ワットを電気の単位だと思っている人がときどきいる。
ワットは仕事率なので、電気以外の仕事でも使用していいのだ。
「Wh(ワット・時)」という単位もある。
これは「1[W]の仕事率で1時間連続した場合の仕事」を意味し、「Wh=3600J」の関係がある。
だから、「Wh」はジュールと同次元の物理量、つまり仕事なのだ。
単位の関係をまとめておこう。
最近あまり使わなくなったが「cal(カロリー)」も加えておく。
| 物理量 | 単位 | 定義・意味・換算 | |
| 記号 | 読み方 | ||
| 仕事 | J | ジュール | 1[J]=1[N]×1[m] 1[N]の力で1[m]移動した場合の仕事が1[J] |
| Wh | ワット時 | 1[Wh]=3600[J] 1[W]の仕事率で1時間連続した場合の仕事が1[Wh] |
|
| cal | カロリー | 1[cal]=4.19[J] 水1[g]の温度を1[K](1℃)上昇させる熱量が1[cal] |
|
| 仕事率 | W | ワット | 1[W] = 1[J]/1 [s] 1 [s]あたり1[W]の仕事をこなすときの仕事率が1[W] |
電力会社からの請求書を見ると、「ご使用量」として「328kWh」等の記載がある。
電気に仕事をさせた分に応じて、電力会社は金額を請求してくるのだ。
決して「20万クーロンの電荷を提供したので、○○円です」とはならない。
電気を使用した場合の効果の度合いも、仕事や仕事率で表現することができるのだ。
力とそれによる移動距離の積であるが、その意味するものの奥行きは深い。
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2005/08/27
2009/06/21
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