物理学解体新書

質量と重量の違い

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「質量」と「重量」の違い

「月の引力は弱いので、月に行くと重さが地球上の6分の1なる」
小学生向けの図鑑には、このような説明が定番として記載されていることが多い。
このような説明にはお約束のように月面で身軽に飛びはねる宇宙飛行士の写真が掲載されている。
月に行くと、体重が減るのだ。


これについて考えてみよう。
60キログラムの人が月面で体重計に乗ったとき、体重計の目盛りが10キログラムになるということだ。
「6分の1なる」ということについては注意が必要だ。
宇宙飛行士の身体を形作る骨や筋肉、体内にある水分が減ったのではない。
人体のもともとの量は減っていないのに、重さだけが変ったのだ。
人体に限らず、物体でも同様だ。


60キログラムの金属の塊を月面に運べば、10キログラムになる。
金属の塊を構成する原子の数は、地球から月へ行っても変化しないはずだ。
もともとの量は変らないハズなのに、重さだけが変ったのだ。


変るハズのない「もともとの量」と、場所によって変る「重さ」は、まったく別のものなのだ。
地球上だけで暮らしていると、「場所によってモノの重さが変る」という事実を実感しにくい。
だから、「もともとの量」と「重さ」を分けて考えることもない。


月面にあっても地球上であっても、人体や無生物の「もともとの量」は変わっていない。
にもかかわらず、月が人体や無生物に及ぼす引力が地球上と比べて六分の1になるため、体重計にかかる力も六分の1になったのだ。

余談

上記の例ではバネ式の体重計に乗ったことを想定している。
もし天秤ばかりにのっていれば、月が分銅を引く力も1/6になるので、結果として60キログラムの分銅でつりあうことになる。
バネ式の体重計は地球上の引力に合わせて作られているので、他の天体では使用できないのだ。
他の天体で正しく質量を測りたければ、天秤ばかりを使用すればいい。




「宇宙空間は無重力なので、体重はなくなる」も宇宙図鑑の定番だ。
現に、宇宙船内でフワフワと浮かぶ乗組員を映像で見る機会もある。
「もともとの量」は変わっていないにもかかわらず、引力の影響が無視できるほど小さいので、体重がなくなったのだ。


地球上、月面、無重力空間を問わず「もともとの量」は変わらない。
この「もともとの量」のことを「質量」という。


ある物体と他の物体とは互いに引き合う性質がある。
これを万有引力という。
この力によって、すべての物体は相互に引き合う。だから「万有」と付く。


しかし、万有引力は人間の感覚で検知できないほど小さい力だ。 だから目の前にある物体が少しずつ動いてやがて接触するなどということはないのだ。


万有引力の大きさは、引き合う物体の質量の積に比例し、距離に反比例する。
従って、引き合う物体のうち、一方の質量が大きいと、大きな引力が生じる。
例えば、地球がこれに該当する。


地球は圧倒的に質量が大きいため、地上の物体が地球に引かれる引力は、人間が感知できるほど大きい。
地球が物体を引く力を重量という。
我々が重さとして感じているのがこの重量だ。
月が物体を引く力は地球の1/6である。だから月面での重量は1/6になる。


「重さ」や「体重」も重量に含まれる概念である。
重量は力なので、ベクトル量だ。
質量と重量の違いを示す図


質量と重量は、似たようなイメージであるが、以下のようにまとめることができる。
・引力の作用の有無にかかわらず存在する「物質のもともとの量」が質量
・地球が物体を引き付ける力(万有引力)が重量


くどいようだが、重要なので数行で再説しよう。
宇宙空間にポツンと孤立している物体は質量を持つが、重量を持たない。
引力の影響がないからだ。
この物質を地球上に持ってくると、地球の引力の作用をうけて(地球と物体が引き合って)重量が現れる。

質量と重量の違いを示す図

「質量」と「重量」の違いが理解しにくい理由には、他にも「単位(kg)の使われ方」の問題がある。
次ページでは、「質量」と「重量」の単位について解説する。

■次のページ:単位から見た「質量」と「重量」


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2005/05/21



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