物理学解体新書

レーザー技術入門[3]

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誘導放出

レーザー(LASER)はもともと「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」(輻射の誘導放出による光増幅)の略である。
レーザーという語が日常に浸透するに従い、言葉の由来を知らずにいる人も多い。
「laseという動詞にerをつけた」「Laser氏が開発した」等の誤解もある。


ここではレーザーの語源の中にある「誘導放出」を解説しよう。
誘導放出がレーザーの原理の根本である。


物質の根本をなす粒子を原子という。
原子は中心となる原子核、および原子核を取り囲むように存在する電子から構成されている。
電子が存在できる場所は軌道に限られている。原子は複数の軌道を持つが、原子核に近から離れるに従い、軌道は不安定になる。
このため、電子はできるだけ内側の軌道に居座ろうとする性質がある。
電子が内側の軌道に収まった状態を基底状態という。


原子が外部から、熱、光、放電等のエネルギーをもらうと、電子は外側の軌道にジャンプする。
このジャンプを励起といい、励起した状態を励起状態という。
基底状態に比べて、励起状態はエネルギーが大きい。外部から得たエネルギーを保持した状態だからである。


励起状態は非常に不安定なので、電子はすぐに元に軌道に飛び降りて基底状態に戻る。励起状態は放っておいても、自然に基底状態に戻るのだ。
この過程で、保持していたエネルギーが光として放出される。
これを自然放出という。
自然放出する前の励起状態にある原子に、隣の原子から自然放出光が入射した場合、興味深い現象が起こる。
入射した自然放出光の刺激によって、励起状態にある電子は強制的に基底状態の軌道に戻ってしまうのだ。
このときもやはり、保持していたエネルギーが光として放出される。
これを誘導放出という。


励起状態が基底状態に戻るプロセスは2系統あることになる。
放っておいても、自然に基底状態に戻る。このとき光を自然放出する。
他の原子の自然放出光を受けて、強制的に基底状態に戻る。このとき光を誘導放出する。


光は粒子であると同時に波動でもある。
この場合は粒子として考えると理解しやすい。
粒子として考える場合の光の一粒をフォトンという。


自然放出光のフォトンが刺激を及ぼし、誘導放出光のフォトンが生成した。
フォトンが2倍に増幅したということになる。
誘導放出光は、自然放出光と同一の波長、同一の位相を持つ。
つまり両者は区別がつかないことになる。
2倍になったフォトンはコヒーレントな光というわけだ。


励起状態の原子をフォトンで次々に刺激し、コヒーレントな光を増やしていけば、レーザー光になる。
これがレーザーの基本原理である。


誘導放出は、1917年にアインシュタインによって理論的に予測されたものである。
この誘導放出を利用して、レーザー光を生成させようというアイデアが提案されたのは1950年代になってからである。

■次のページ:レーザーの原理

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2006/01/14



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